第15回 竹之内大輔さん |
●ライバルはGoogleとfacebook いざ会社を始めると、想定外に私たちのことが早く世の中に知られることになりました。Twitterに大喜利AIのプロトタイプを上げていたところ、多方面から取材を受けるようになったのです。 さまざまな取材を受けているうちに、他の企業さんから「うちとこういうビジネスをやりませんか?」とお話をいただくようになりました。私たちとしては自分たちが作りたいものがあり、自社サービスとしてやっていきたかったので、基本的にはすべてお断りしました。その中で1社、「あなたたちが作りたいサービスを作ってください」と言ってくださる企業さんがあったので、その企業と一緒に、今はサービスの共同開発を進めています。 今開発しているAIはプロトタイプ以上の性能のものができているので、あとはこれをどう世の中に見せていき、ユーザーの方々に使っていただけるかが勝負です。そのためには、AIの水準をもっと上げないといけませんし、ビジネスとして回る仕組みを作らないといけません。まだまだ戦いはこれからという感じです。ライバルはGoogleとfacebookですから、彼らより先に意識を持ったAIを作るのが目標です。 ●大人の言うことは信じるな! 私には、今の大人たちが子どもたちに勧めてくるようなことは、全部否定したい気持ちがあります。こんなにテクノロジーが発展するスピードが速くて、社会の環境がどんどん変わっていくのですから、大人が「今これをやっておいたほうがいい」と考えていることは、5年後必ず価値がなくなっているはずなんです。 今、「人工知能がブームだからプログラミング教育を!」と言っていても、5年後、10年後になれば、人間が書かなくてもプログラム自体がプログラムを書いてくれる時代になっているはずです。 子どもたちにアドバイスをするなら、「大人が言っていることはひとつも信じるな!」ということですね。逆に先生たちには、自分たちが未熟であることを認めてほしいと思います。先生は不完全な存在でいいと思うんです。教える立場だという態度は、戦前ならまだしも、今の時代には合わないでしょう。未熟だと認めたほうが、子どもたちへの説得力は圧倒的に高くなると思います。 今の時代は、格差や貧困の問題はありますが、可能性は開かれていると思います。頑張れば逆転できる世界です。また、インターネットにつながってさえいれば何でもできる時代です。塾に通えない子もネットを見れば無料で勉強を教えてくれるものがあったり、本に載っているのと変わらない質の論文を読めたりします。私たちが子どものとき、古本屋に行かなければ見つからなかったようなものも、今はネットで見つけられます。 勉強する可能性は無限に広がっていますから、子どもたちには最先端のガジェットを駆使し、大人の見つけられないようなものを見つけて、それにのめり込んでほしいなと思います。 ●「うまさ」はいらない「ヘタ」でいい インターンに来る学生さんを見ていて、小器用にまとめようとする人が多いのがとても気になります。パワーポイントできれいにまとめられた企画書を作ってくるのですが、中身はどこかで見たような内容であることがとても多い。 湯村輝彦さんというイラストレーターの言葉で、「ヘタウマ」という言葉があります。 湯村さんが言うには、創作物は大きく4つに分けられます。「ヘタヘタ」「ヘタウマ」「ウマヘタ」「ウマウマ」の4つなのですが、「ウマウマ」は、とてもきれいな絵を描くような、芸大出身で、トップクリエイターになるような場合を言います。「ウマヘタ」は、うまいけれど、胸に何も響かないような創作物を作る人。「ヘタヘタ」は、ヘタすぎてどうしようもないようなもの。「ヘタウマ」というのは、ヘタなんだけれど、何か胸に迫るような存在感があるものです。湯村さんがこれに順位付けをすると、1位が「ヘタウマ」、2位が「ヘタヘタ」、3位が「ウマウマ」、4位が「ウマヘタ」となります。 「うまい」ものは、強度が弱いんです。確かにきれいなんですが、それ以上には決してならない。 今の学生たちが、「うまい」を志向していることがとても嫌で、もっとヘタでいいから自分は何がしたいのかということを突き詰めてほしいと思います。中学・高校・大学の時期というのは、自分が何者なのかを考える数少ない時間ですから、その時間で、ちっともうまくなくていいし、すごくヘタでいいので、本人がにじみ出てくるようなアウトプットをしてほしいと思います。 自分はこういうことが好きなんだということがちゃんといえるということは、時代が変わっても変わらずに価値があるはずです。 偉そうに言っていますが、自分に向けて言っている部分もあります。会社を創るまでの34年間、私は大いなるコンプレックスの固まりでした。好きなものや自分の価値観はあるのですが、コンサルティング会社にいるときも、提案するビジネスは既存のものの組み合わせでしたし、研究者のときも郡司さん以上の研究はできませんでした。アウトプットはどこかの誰かの真似でしかないという思いがずっとあったのです。 ここ数年で会社を始め、大喜利AIを作り、これだけは誰が何を言おうとも自分たちの完全オリジナルだよというものがやっとできた、やっと殻を破れたという気持ちがあります。 そういった意味では、学生さんが自分のオリジナルを出すというのも難しいだろうと思います。ただ、幸運なことに、コンプレックスとクリエイティブはコインの表裏ですから、コンプレックスを持ってもがいていれば、いつかオリジナルなものを作れる自分になれるよ、ということは言いたいですね。 (写真/構成 中込雅哉)
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