第3回 映画監督 清水崇さん |
|
●寝耳に水のハリウッドリメイク 幸いにもビデオ化、映画化と評判を呼んだ『呪怨』に、突然ハリウッドでのリメイクの話が舞い込んできます。しかも名プロデューサーでもあるサム・ライミ監督から「アメリカの監督でなく、オリジナルの清水監督にぜひ」と熱烈なオファーを受けたのです。憧れの監督がそこまで言ってくれる嬉しさはありましたが、日本人の怖さに対する感覚を大事にした作品を、しかもオリジナルを撮ったすぐ後に自らリメイクなんて……と今ひとつ乗り気になれずにいました。当時ハリウッドで撮ってみたい、という野望は一切なかったですし、私は英語もできないどころか、海外旅行の経験すらなくパスポートも持っていませんでしたから。結局「とにかく一度来て欲しい」と再三の要求に根負けする形で訪米しましたが、この時点ではかの有名なサム・ライミだし、単に名前を貸している程度で深く関わってはいないだろう、とたかをくくっていました。 しかしその頃『スパイダーマン2』を撮影していたサムのスタジオを訪れると、大歓迎してくれて『呪怨』の細部に渡り嬉々として思いのたけを話し、質問してくるんです。「この部分はホラーでありながら、コミカルな要素を入れているだろう」などと、日本の人たちも気づいていないような部分まで共感してくれて、感覚は似ているのかもしれない、とすっかり意気投合しました。よし、これなら撮らせてもらおう、ぜひ撮りたいと思いましたね。この時31歳、こう語っていても目まぐるしい展開ですが、かつて30歳で映画の道を一度考え直そうと思っていた私が本当に? ですよね。 撮影中は映画プロデューサーと毎週のようにぶつかっていましたが、その度に監督とプロデューサー両方の立場がわかるサムが仲裁に入って、双方を納めてくれることが多く、苦労をかけましたね。自分ばかり我を張るのも良くない、でも我を通すことが監督の仕事でもある。この経験はとても難しかったし勉強になりましたが、本気で取り組んでいるもの同士だからこそ衝突するわけですから、今でも互いが意見をぶつけ合うことは大事だと思っています。 私の場合は思っていた以上に早く監督をする機会を与えてもらいましたが、監督になるより続けることが大切ですよね。私は飽きっぽいこともあり、ひとつの作品は数ヵ月から数年かかりますが、さあ次の作品、となった段階で自分のやれることも変わって来ます。毎日が違う仕事だから楽しめているんだと思います。 |
|||||
|
●『魔女の宅急便』について 私の場合、これまでホラー映画が主だったので、誰にでも勧められるという作品ではありません。しかし今回監督した『魔女の宅急便』はジブリ版が有名ですし、これなら子どもにも見てもらえるということで、周りの反応が違いますね(笑)。 この作品を見るために、映画館には十数年ぶりに足を運んだ、なんて言ってくれる友だちもいたりするのが嬉しいです。 子どもたちに伝えたいことは、これは『魔女の宅急便』のテーマとも繋がるのですが、好きなことだから始めたはずが、それが仕事になって本気で取り組んでいくと、必ず飽きたり好きでなくなる瞬間があります。それでも、自分が好きになったことは貫き通してほしいということです。 好きなことを糧に生きる以上は、他人に愚痴や泣き言は言えません。それ相応の痛みや辛さ、誰にも言えない苦しみもあります。けれど、そこに背を向けずに向き合ってほしいですね。単にそこから逃げてしまうと、逃げてしまった自分自身も嫌いになってしまうでしょうから。
|
3/3 |