第65回 ブリキのおもちゃ博物館館長 北原照久さん

「継続は力なりで、やり続けていると絶対に誰かが認めてくれるのです。他人が認めるくらいまでやり続けるというのは非常に大事なのです」
<横浜市内のオフィスにて>
コレクションの極意
 コレクションというのは情報が大切です。ある程度の水準を越えると、情報というのは黙っていても向こうからやってきます。ぼくの場合は「ああ、テレビに出ているオモチャの人だね」とみなさんが理解してくださっています。それで、ぜひぼくに見てもらいたいと思ってくださるわけです。しかもぼくは、感動、感激、感謝の「三感王」ですから、ぼくに品物を持ってきてくれたら、喜びを全身で表します。さらに、必ずよいところから相手に伝えるのです。
 普通は持ち込まれた物をけなす人が多いのです。なぜかというと、安く手に入れたいからです。逆にぼくはよいところから言いますし、正直に「この金額では買えないけど、この金額なら買えます」と伝えます。すると、たいていの方は「じゃあ、それで北原さんにお譲りしますよ」とおっしゃってくださいます。
 人間というのはほめるのがなかなか苦手です。そこで、ぼくはよく「陰ぼめ」をスタッフにも勧めています。直接相手を誉めるのが苦手だったら、陰でほめればいいのです。最悪なのは夫婦でけなし合うことです。人前で自分のパートナーをけなすのは、自分自身をけなすようなものです。本人は謙虚なつもりかもしれませんが、根本的に違うのではないでしょうか。
 謙虚ということでいえば、よく「つまらないものですが」と言って、物をあげる人がいます。もちろん謙譲の美徳というのもわかりますが、決まり文句のように言うのもどうかと思います。
 たとえ安価な七味唐辛子でも、「これはすごく香りがいいんです。ちょっと使ってみてください」と言って渡せば、気持ちが入っていますから、使うたびにくれた人を思い出すはずです。「つまらないものですが」と渡されるより、味も全然違ってくるでしょう。ですから、本当に自分がいいなと思ったものをプレゼントすべきなのです。値段は全く関係ありません。


コレクションに終わりはない
 これまでにたくさんのオモチャを集めてきました。もうこれ以上集めなくてもいいのでは、と思う人もいるかもしれませんが、とんでもありません。ぼくにとってはネバーエンディングストーリーで、決して終わりがないのです。物欲の権化みたいなもので、まだ「あれも欲しい。これも欲しい」といつも思っています(笑)。四〇〇坪の倉庫の中にはまだ十軒分の博物館に相当する量のコレクションがあります。それでも、自分の欲しいものを頭に描けるのはとても幸せだと思います。
 ぼくは好きなことを見つけて、それを仕事にしてきました。ぼくにとっては趣味が仕事なのです。毎日が楽しくてしかたがありません。この十八年間、三百六十五日、ただの一日も休んでいないのです。周囲からはよくからかわれるのですが、好きなことだから全然苦になりません。
 ぼくは六十歳からが本当のスタートだと思っています。五十六歳の今はアイドリングです。いろいろな経験やノウハウ、人脈、信用を蓄積しているのです。ですから、六十歳になったら、もっとスピーディーに自分の夢を実現できるのではないかと思っています。あのカーネル・サンダースは六十歳からスタートして、世界のケンタッキーフライドチキンを作りました。同じ人間なのだから、自分にもできると考えています。
 自分にとって何が得意なのかを見つけるのに、時期が遅いということは全然ありません。高校に入ってから見つかることもあるし、大学に入ってから、あるいは二十代や三十代、四十代になってから見つかることもあります。その人がやり始めたときが一番よいときだと思うし、やる気があります。You can do it! やればできるのです。


(写真・構成/桑田博之)
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