|
自宅の庭に建つ,文庫「本と人形の家」。本の貸し出しや,紙芝居などの催しも行われている。 |
|
|
|
●心の中の「種」を温める
結婚してから,私は劇団の収入のために仕事を次々と引き受けました。テレビ局のスタジオを駆け回ったり,朗読の仕事をしたりと,とにかく毎日が戦争でした。
そんな私をご覧になって,坪田先生の息子さんがこうおっしゃったのです。「松谷さん,テレビ局ばかり行っていると駄目だよ。作品というのは書いたものしか残らないよ」。おっしゃるとおりだと思いました。
『ちいさいモモちゃん』は,長女から「あたしの赤ちゃんのときのおはなしをして」とねだられたのがきっかけで書いた作品です。また,次の子どもが生まれた時に書いたのが『いないいないばあ』です。ありがたいことに,『龍の子太郎』も『ちいさいモモちゃん』も『いないいないばあ』も,未だに多くの読者に読まれ続けています。
私には作家になろうとか,本を出そうとか,そういう野心があまりありませんでした。自分の心の中にある「種」を温めて書いていったのです。それにはやはり良い編集者に出会えたことが大きかったと思います。『直樹とゆう子の物語』を出した時もそうでした。これからも私はそういった作品を何年かに一つずつ,ゆっくりと書いていけたらと思います。
|