第19回 映画監督 本広克行さん |
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●フリーの経験が“いま”につながる 映画監督というと、その肩書きばかりが注目されてしまいますが、ぼくは現在、ROBOTという製作会社の一社員なんですよ。入社したのは『踊る大捜査線 THE MOVIE』が公開になってからで、もともと共同テレビの社員。ただそのあと一年くらいフリーの期間がありました。 組織に所属している人間として映画を撮るのも、フリーとして映画を撮るのも基本的にはそんなに変わらないものだと思ってます。だけど、長い間テレビの製作会社でやっていたとき、自分がだめになっていくのがわかってきたんです。「枯れてるな、オレ、いま」って。作品に対しても、だんだん「まぁ、こんなもんでいいか」って、中途半端なところでOKを出したりして。「いいよ、いいよ、早く帰りたいし」ってなってくる。 そうなると作品にパンチがなくなるし、個性がなくなっていく。それで「これはいかんな」と。また次に映画を撮るといっても、下手すると大はずしする映画をつくってしまうかもしれないと、すごい危機感が生まれてきたんです。だからフリーになって一発奮起しようって。一ヶ月に一本,二時間ドラマを必ずつくったりして気合い入れまくってました。 そうやって自分自身にハングリー精神を植え付けたあと、『踊る大捜査線 THE MOVIE』の撮影に入って、あの映画が馬鹿みたいにあたったんです。それで「ああ、これはフリーのままではいられない」と思って、ROBOTに入れてもらったんです。もともと仕事が断れない主義で、フリーのままだとマネジメントも自分でできなくなりそうだったんですよ。 ●21世紀のエンターティナーに いま、気心の知れたスタッフとお互いの経験値を上げながら作品をつくっていくというのは、すごく楽しいですよ。もちろんつくっていく過程では揉めますけど、揉めるのも気心が知れてるから揉めやすい。『サトラレ』もプロデューサーと大喧嘩しながらつくっていきましたから。「こんなのどこがおもしろいんですか!」って。 でもそういうディスカッションがないといいものは出てこない。ROBOTには戦えるいいプロデューサーがいる。ぼくは、本当にプロデューサーに恵まれています。ものをつくるのは絶対的に人の力によります。他の作品を見ても、いいディレクターには必ずいいプロデューサーがいます。ひとりじゃ何もできないんですから。 フリーを経たことで、そういった「ものをつくるときの大切さ」をあらためて学びましたね。以前の会社員時代は、まるでベルトコンベアに乗せられてるみたいに、次から次へと作品をつくってました。もちろんそれはそれで職業としてはおもしろいんです。 でも自分に力が衰えてると思って、フリーになったとき、組織にいたときには考えられなかった縛りを初めて自覚したんです。たとえば予算に合わせてつくらないと次の仕事がこないし、逆に役者さんからの指名があったりもする。スタッフも毎回違う人なわけですから、あらたにコミュニケーションをとらなければならない。気を遣うことがすごく多かった。 貴重な経験でしたね。そのひとつひとつがいまのぼくを支えてくれていると思います。ぼくも会社員ですから(笑)、いわれれば何でもつくります。でもたとえどんな素材であっても、多くの人を楽しませる作品をつくっていきたい。それは変わりませんし、それが職業監督としての使命ですよ。これからもエンタティナーに徹していきたいと思いますね。
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