第6回 マジシャン 花島皆子さん

日本のマジックは世界的に見てもハイレベルなんですよ
自分らしさを出さなければだめ
 独立してからも、おかげさまで仕事は順調にいただけました。マジックのネタはこれまで先生に教えていただいたものをやるわけですが、ただ、先生と同じやりかたでやってもだめなんです。それじゃ絶対に松旭斎すみえという大名人には歯がたちませんからね。ひとり立ちしたからには花島皆子の色を出していかなければなりません。しかし、これがなかなかむずかしい。マジックというものはだいたいやっていることはみんな同じなんです。見せ方や話術、マジシャン自身の雰囲気であるとかで、同じマジックでも全然ちがったものに見えるんです。しかし、そういったものはキャリアを積み重ねながら作り上げていくもので、一朝一夕にできるものではないんです。とはいえ、なにか自分の色を出さなければいけませんから、花からスカーフからマジックで出現するものすべてを白い色でまとめてみるとか、独立した最初の頃はそんな手探りの中での出発でしたね。

永六輔さんとの出会い
 五年ほど前ですが、あるイベントの打ち上げで永六輔さんと知り合ったんですが、そのとき永さんが言うには、「皆ちゃん、いまのままじゃ日本のマジックはだめになるよ。ただ音楽に合わせてやるだけじゃなく、もっとくふうしなくちゃ」と。永さんはマジックが大好きなんです。それでいろいろとアイディアを出してくれたんです。歌を唄いながらマジックをするとか、あらかじめかけ合いの言葉を録音したテープを流しながらマジックをするとかね。わざわざ台本まで書いてくれました。たとえば私がマジックをしている最中にステージ上にさまざまな声が流れるんです。「今日の女はいい女だ。こんど娑婆に出たらあのマジシャンのひもになってまじめに生きていこう。刑務所編」とか、「今日はとっても楽しい手品をどうもありがとう。これで目が見えたらもっとよかったのに。老人ホーム編」とか、「うちのおかあさんは人をだますような人は悪い人だと言っていました。手品師は悪い人だと思います。小学校編」とかね。私は「そんなことないわよ」なんて言いながら、一万円札を三万円に増やしたりね(笑)。実際にステージでやってみたらこれが大受け。いま永さんからは、「皆ちゃん、世の中にはいろんな職業があるでしょ。もし政治家が、テレビショッピングのお姉さんが、保母さんがマジシャンだったらどんなことになるか。それぞれに応じたマジックを考えてみてよ」という宿題まで出されています(笑)。
 これまでの人生をふりかえれば、離婚、最愛の子どもの急逝と、絶望感につぶされそうになったこともあります。それでも私にはマジックという世界があったからこそ生きていく勇気もわいてきたんです。これからも唄って踊れるマジシャンの道を極めるべく、日々精進していきますので、ぜひ応援してくださいね。
(構成・寺内英一/写真・藤田 敏)
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