リオ・デ・ジャネイロ コルコバードの丘のキリスト像
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「ブルーガイド・ポシェ ブラジル」監修・吉田憲さんに聞くブラジルの魅力[前編]

2014.06.11

ブラジルってどんな国? 国民性は? 治安は? W杯反対デモってサッカー好きじゃないの? などなど…
「ブルーガイド・ポシェ ブラジル」の監修をしていただいた、JICA青年海外協力隊事務局中南米課長の吉田憲さんにお話をお聞きします。

――吉田さんはブラジルに計7年間住んでいたとお聞きしました。吉田さんが思われるブラジルの良さというのはどういったところでしょうか?

吉田 人に対して優しい国ですね。日本も親切な国と言われますけれどブラジルの場合は、ストレートに言葉、行動に出るんですね。例えば、妊婦さんが電車に乗ると、満員電車でも一斉に5~6人が立ち上がったりする。

――日本の場合はちょっと探り合いみたいなのが入りますね(笑)

吉田 そうなんです。ブラジルは、そういったものがないですね。

――なるほど。ただ、足を踏み入れたことがない人間から見れば治安が悪い国という印象がどうしても拭いきれないと思います。そういったことが頭にあると、その優しさに乗っかってしまっていいのか? と身構えてしまう部分があると思うのですが。

吉田 確かにそこは難しい部分ですが、1対1で目を見つめ向き合った時に旅行者を騙してやろうなどと考えるブラジル人は、一握りです。大多数は親切な心を持っています。危ないのは、夜中の独り歩きとか、危険な地域に行ってしまうとか、そこさえ気をつければ基本的には大丈夫なんですよ。

――誰に対しても親切で、フレンドリーに接するという国民性というのはどこからきているのでしょうか。

吉田 ブラジルというのは真の意味での「人種の坩堝(るつぼ)」なんです。移住者によってつくられた国で、様々な人種の人間によって社会が構成されているんです。だから言葉や肌の色が違うということに対しての偏見が一切ない。というより、「他人と違うのが当たり前」という考えが根底にあるんです。以前ブラジルの田舎町に行ったときに、地元民に早口のポルトガル語で道を聞かれたんですね。日本の田舎だったら、地元の人が外国人に道を聞くなんてことはまずないですよね。


フレンドリーなブラジルの人々

――それこそ、世界中からもっとも多くの人種が集うイベントと言ってもよい「W杯」が始まります。吉田さんは、住んでいてブラジル人のサッカーに対する情熱などは感じましたか。

吉田 ブラジル人にとってサッカーはもう「人生」そのもの。セレソン(サッカーのブラジル代表の愛称)には2億人(ブラジル人全人口)の監督がついていると言われています。特にワールドカップの時期になると、普段はおとなしい「こんなおばあちゃんまで!?」と驚くくらい、みんながサッカーについて熱く語りだすんですね。

――吉田さんが住んでいた時のワールドカップの開催期間中の雰囲気はどうでしたか。

吉田 私がいたのは1998年のフランス大会と2010年の南アフリカ大会でしたが、セレソンの試合開催日は銀行とか各政府機関を含め、すべて休みになる。バスも走らないし、昔の日本のお正月みたいな感じで、商店はすべて閉まっていて、人っ子一人歩いていないような…みんなテレビ観戦していて、ブラジルチームが得点すると爆竹がならされるような状況でした。

――今回は64年ぶりの自国開催です。

吉田 そうですね。今回はみんなスタジアムに押しかけるでしょうし、これまで以上に社会は機能しなくなるでしょうね(笑)

――ただ、スタジアムの建設の遅れやデモの問題が心配です。

吉田 デモに関して言えば以前からあったんですが、ブラジルのデモというのは誰かを傷つけたり、死亡するとかそこまで過激ではないんです。ただ、最近は規模が大きくなっています。その背景にはブラジルが世界的にも経済の中心(GDPは世界7位、日本は3位)になってきていて、国民の意識も経済上昇とともに上がっていっているということがあります。

――視野が広くなったということでしょうか。

吉田 そうですね。ある程度の経済力を持てるようになった、電化製品・自動車などを買える層、いわゆる中間層が過去10年間で5000万人増加し、全人口の6割を超えました。こうした中間層こそが社会への参加意識を持つようなってくる。こういった大規模なイベントだけにお金を使っていいものか、果たして社会はどうあるべきか、といった疑問をいだくようになる。決してW杯の開催に反対しているわけではないんですよ。社会への参加意識が多くの国民に醸成されているという意味では新たな成熟した社会のステージに入ったとみるべきだと思います。

――スタジアム建設の遅れはどうでしょうか。

吉田 ブラジル人は夏休みの宿題を最終日に一気にやる、という人がほとんどです(笑) その辺の国民性が顕著に表れていますね。スタジアムも100%完成ということにはならないでしょうが、大会は滞りなく開催されるのではないでしょうか。


ワールドカップの決勝の舞台 マラカナンスタジアム

――それでは、日本代表の予選会場である3都市について教えてください。

吉田 1試合目はレシフェですね。ここは運河と橋が多く「ブラジルのベネチア」と呼ばれています。隣町のオリンダはポルトガルやオランダの建築様式の教会が残る世界遺産にもなっている街です。美しい街並みが広がっています。ぜひ食べてほしいのは、キャッサバ芋を使ったタピオカというクレープのような料理。見どころも食べ物も素晴らしいところです。

――2戦目のナタールはどんなところでしょうか。

吉田 ブラジル東北部、地図で言うと右肩のところにあり、年中通して暖かく、美しいビーチがたくさんあります。それと砂丘。バギーカーで砂丘を走りまわったり、砂スキーなどが楽しいですね。それと、大西洋に浮かぶ世界自然遺産の島フェルナンド・ジ・ノローニャへの拠点にもなっています。

――3戦目はクイアバですね。

吉田 ここはとにかく暑い(笑) パンタナールという大湿原地帯に位置する街で、パンタナール観光の拠点となっています。ワニとかピラニアとかはアマゾンのイメージが強いでしょうが、その種類や数はこのパンタナールの方が多いと言われています。数百頭のワニの群れを見たり、ピラニア釣りが楽しめます。日系社会もあって広い野球場ではみなさん熱心にやっています。2011年からは毎年9月に大規模な日本祭りも始まり仙台の七夕なども楽しめるようになりました。


レシフェの隣町、世界遺産のオリンダ

ナタールで最も美しいポンタ・ネグラ海岸

多種多様な動植物が棲息するパンタナール

<後編につづく>