第64回 劇団「宇宙堂」主宰者 渡辺えり子さん

(C)宮内勝(Miyauchi katsu)
良い台本を書くには…
 私が芝居を作る上で核になっているのは,社会に対する問題意識です。ただ小説と違って,劇団ですから,あて書きになります。あて書きというのは役者にあてて書くのですが,いい役者に出会うと,触発されていい台本が書けるのです。逆にいい役者に出会わないと,全部ゼロから考えるのでなかなか筆が進みません。いい役者にあて書きする時はストーリーさえ自分で考えていくと,あとはその役者が勝手にしゃべる声が聞こえてきます。私はその役者の声を書くだけでよいのです。そうして出来上がった作品は,演出するときも非常に楽ですね。
 当時も今も女性で作・演出をしている人というのは少ないです。しかもシュールな作品を書いて演出しているのは,如月小春さんが亡くなってからは全国で私一人だけです。
 演劇界も昔よりは多少改善されてきて,照明や音響のスタッフにも女性が入るようになりました。これは3K(きつい,きたない,きけん)と呼ばれた仕事を女性が選ぶようになってきたからでしょう。しかし,プランナーということになると,やはり男性の方が多いです。女性がもっと進出するのはこれからではないでしょうか。

新たな挑戦
 二十年間続けてきた劇団3○○を一九九七年に解散しました。その時は「これでやっと自分の仕事に専念できる」と思ったものの,劇団が無くなると,次第に虚しくなってしまったのです。そこで,二〇〇〇年に新たに劇団「宇宙堂」を立ち上げました。劇団を立ち上げて良かったとは思うのですが,今は若い役者達の意識がサラリーマン的で,おもしろみのある人がいなくなってしまったという気がします。どん欲で乱暴な人や,ハングリーなものを持っていて,舞台の上で爆発する力がある人がなかなかいません。私は刺激を受けないと書けないので,とにかくおもしろい役者とやりたいです(笑)。
 今年は五〇歳になりますが,節目の年ということもあって,舞台を五本ぐらい上演する予定です。その後は映画を一本作ろうと思っています。脚本兼監督でオーディションをして,若い役者を選ぶつもりです。三ヶ月ほど山形の田舎で一緒に生活をして,自然と都市の断絶と融合をテーマにして撮ろうと思っています。しかもコメディーで,笑えて泣けるものにしたいと考えています。過疎の村を舞台にした,おもしろい話をやりたいですね。
 それから,グルジアで海外公演をしたいという夢があります。今はチェチェン問題で大変ですが,以前に二度,グルジアで見た芝居がとてもおもしろかったのです。必ず歌と踊りが入っていて,リアリズム演劇だけれども,民族演劇と融合しているような芝居でした。私の芝居と肌合いが似ていますので,うちの劇団の芝居は絶対受けると思っています。

(写真提供・宇宙堂/構成・桑田博之)

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