第26回 芸能リポーター 梨元 勝さん

映画の出演依頼は絶対に断らない。夢は芸能リポーター以外の役をやることですね(笑)
日本初の芸能リポーターへ
 記者生活八年後,大きな転機が訪れました。テレビ朝日の「アフタヌーンショー」が,各週刊誌の芸能記者をスタジオに呼び,一年間の芸能界の話題を総決算するという番組を企画したんです。「これはもう梨元を出すしかないだろ。取材してきたことを面白おかしく話すことに関してはピカイチだからな」
 そんな編集長のひと声で,ぼくが出演することになったんですが,放映後,こいつは面白いと局内で評判になったそうなんです。ぼくとしては,編集部内でしゃべっているふだんのまんまなんですが(笑)。それでまた番組から出演してくれと頼まれる。そんなことが何回か続くうちに,ついには「専属契約を結んでレギュラー出演者になれ」という話にまで進んでしまったんです(笑)。当時,芸能評論家を名乗る人はいても,自分で取材したことを,自分の言葉でもって語るような人間はいませんでしたから,ぼくのような人間が新鮮に映ったのかもしれません。ただ,正直言って悩みました。雑誌記者として生きていく自信のようなものが付いて来た頃でしたからね。それでもこう考え直したんです。
「取材した人間ドラマを人々に活字で伝えるか,自分の全身を使って伝えるかの違いで,芸能ジャーナリズムとしての本質は同じだ。だったら未知の世界に挑戦してみよう」
 格好良くいえばこうなんですが,もともと目立ちたがり屋の性格だったんです(笑)。
 こうして「すみません,恐縮です」を枕詞にした日本初の芸能リポーターとしての仕事が始まったわけですが,最初の頃は失敗の連続でした。マイクの向け方がわからない,カメラの前に立つ位置もわからないで,スタッフからはいつも怒られてばかり。その度に「こんな仕事辞めて雑誌記者に戻ろう」と思うんですが,あと三日,あと三週間,あと三ヶ月だけは頑張ろうとしているうちに,次第にテレビ業界の約束事にも慣れ,芸能リポーターとしての仕事にも生きがいを感じるようになってきたんです。振り返ればあれから二十五年,あっという間でした(笑)。

毎日が真剣勝負
 この芸能リポーターという仕事を続けるにあたり,自分自身に課している信条があります。ぼくはもともとサービス精神旺盛というか,八方美人的な性格でして(笑),取材で知り合ったタレントさんなんかとすぐに仲良くなってしまうんですね。しかし,これには良い面と悪い面がある。どんなに親しいタレントさんでも,良いときもあれば悪いときもある。「良いときだけ取材して,悪いときは目をつぶる」なんてことはできません。これは相手が親しければ親しいほどつらい。ただ間違えちゃいけないことは,芸能リポーターがサービスする相手は目の前のタレントさんじゃない,すべてはテレビの前の視聴者の人たちなんです。視聴者が知りたがっていることは何とかして聞くことが大切なんです。
 もうひとつの信条は,相手が飛ぶ鳥を落とす勢いのビッグスターであろうと,新人タレントであろうと平等に取材するということです。ビッグスターのスキャンダルの場合は腰を引き,そうじゃないタレントさんの場合はガンガン追及するなんてことは絶対に許されない。それをやったら取材の平等に反しますからね。マイクを向けるぼくも,向けられるタレントさんも,共に真剣勝負なんです。これらの信条が守れなくなったときには,いつでも番組を降りる覚悟でいます。完璧にできてるわけではありませんが,芸能リポーターとしてのプライドかもしれません。舌鋒鋭く追及したにもかかわらず,最後にタレントさんから「ご苦労さま」と言われるようになって,この仕事は初めて一人前なんです。

噂話もひとつのコミュニケーション
 昨年から函館大学で客員教授として講義をするようになりました。科目は「芸能社会」。わかりやすく説明すると,芸能ニュースから世の中を探っていこうということなんです。社会から芸能を見ることはあっても,芸能から社会を見るなんてことはこれまでなかったと思います。
 しかし,芸能ニュースには男女関係,離婚問題,金銭欲,セクハラ,ストーカー,暴力団,薬物乱用と,ありとあらゆる今日的なテーマが凝縮しているわけです。これらの事象を自分の分析を交えながら学生に語りかけていますが,これからは「芸能プロダクションを起こすには」なんていう経済教育的なアプローチにも取り組もうかとも思っています(笑)。
 芸能リポーターというと,眉をしかめる人もいるでしょう。実際,女房や娘がつらい目に遭った時期もあります。が,考えてみてください。噂話も許されない社会が本当に住み良い世の中なんでしょうか。もちろん噂はあくまでも噂であって事実ではありません。しかし,噂話はある意味で人と人とのコミュニケーションを活性化させてもくれます。噂話が自由にできる社会ということは,自由な社会であるという証でもあるんです。
 芸能リポーターを目指したいという人たちへのアドバイスですが,「誰でもなれるから頑張れ」ということですね。明るくなくてもいい。暗かったら,その暗いキャラクターを武器にすればいいんです。要は自分を偽らないこと。学校の先生だって,明るい先生ばかりが良い先生とは限らないのと同じです。もうひとつだけアドバイスをすると,ぼくは体力の続く限りは絶対に引退しません。生涯現場──それが一番好きなんです。
(構成・写真/寺内英一)
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